昨年末、シックス・アパート社に訪問した際に、「ユーザーの声」ということでMovableType.netというサービスについて聞かれた内容が、インタビュー記事として紹介されました。
2015年2月に正式リリースされた『MovableType.net 』は、通常のソフトウェア版やクラウド版に比べると、初期コストが安く手軽に使える反面、機能的にもの足りない部分もあるため、実用にはやや足踏みするところもありました。
しかし、ちょうど、リリースから1年となるのですが、これまで積極的に機能やテーマの追加などが行われており、実制作において、選択肢の1つとして考えられるものとなってきたのではないか、そのような話をしました。実際に、昨年末に3件ほどMovableType.netでの納品をしています。制作上での制限もありますが、実際にクライアントに納めてみて、案件によっては十分に検討の余地があるのではないかと感じています。
そこで、改めてMovableType.netのご紹介をしたいと思います。
そもそもMovable Typeとは?
MovableType.net は、シックス・アパート社のCMSソリューション『Movable Type』のラインナップの1つ。初期費用やサーバーなどが不要で月額2,500円(年払いの場合は月額約2,100円)から利用できるWebサービスのCMSです。
そもそもMovavle Type(ムーバブル・タイプ)とは、ブログを手軽に更新するためのブログツールとして2001年に開発されたものです。バージョンアップに伴って機能が拡張され、ブログにとどまらず企業のウェブサイトなどにも利用されるCMS(コンテンツ管理システム)と発展し、すでに14年以上の歴史があります。
Movable Typeは個人の非商用利用は無料で使うことができ、商用利用でも数万円のライセンス費で買い切ることができました(現在は9万円)。企業ブログというものが注目され始めたころから企業での利用も増えていき、次第にブログだけではなくサイト全体でも利用されていきました。それまでの企業利用のCMSは、軽く何百万円もするものでしたので、ウェブサイト全体の管理機能を拡充することで、企業利用へのニーズに応えながら進化してきた製品です。なお、現在はバージョン6.2が最新版となっています。
同じく、ブログツールとして登場し、CMSとして利用されるものにWordPressなどがあります。WordPressの場合はオープンソースなので、ライセンス費は不要で使うことができます。企業利用の世界では格安のMovable Typeでしたが、個人や小規模利用のサイトではライセンス費が不要なオープンソースのCMSは重宝され、WordPressなども企業利用の比重が増えることとなっていき、シェアとしては完全に抜かれています。
一見すると、オープンソースのCMSのほうが安価に作成できるように感じますし、低予算の案件ではとくにオープンソースのCMSにシェアを奪われている事実があります。ただし、案件の規模が大きくなればなるほど、料金差は少なくなり、カスタマイズ内容によっては、オープンソースのCMSよりも安価に作ることができる場合があります。個人的に、WordPressで作るよりも安く提示できる例も多々あります。ライセンス費をもらって企業利用を伸ばしてきたことから、セキュリティに対するスタンスやサポートについては安心できるところがあるので、総合的にMovable Typeを提案することが多いです。
小規模のサイトでも利用できるMovable Type
昨今では、検索エンジンがページ数の多いサイトや更新頻度の高いサイトを評価することもあり、ウェブサイトを作成する中で、サイトを更新しやすいようにCMSを導入するというニーズが高くなっています。例えば、小規模のサイトであってもちょっとしたお知らせなどの情報発信を、手軽に自社内で更新していきたいというような話は必ず出ます。つまり、小規模のサイトであっても、CMSのニーズがあり、しかもスマートフォンなどから簡単に更新したいというような話は多くなっています。
現在、Movable Typeの製品ラインナップはいくつかあります。用意したサーバーにインストールして構築する「ソフトウェア版」。複数のサーバーで利用でき、高機能で社内システムとも連携できる「エンタープライズ版」。サーバーの用意が不要でメンテナンスもお任せの「クラウド版」。サーバーをAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)にして、マーケットプレイスから簡単にインストールして使うことができる「AWS版」。そして、「ウェブサービス版」のMovableType.netとなっています。
以前はMovable Typeにもオープンソース版があったのですが、製品版とオープンソース版の両立は難しかったようで、現在はオープンソース版は開発中止となっています。
Movable Typeで一番よく利用されるのは、元々の製品でもあるソフトウェア版。現在、9万円の買いきりで、1台のサーバーであれば複数のサイトを管理することができ、ユーザー数などにも制限はありません。ある程度の規模のサイトでは問題ないのですが、予算規模が20〜30万のサイトなどではライセンス費の比率が大きくなるため厳しく、以前はオープンソース版を利用するケースが多かったのですが、その選択肢がなっくなってしまいました。
サーバー代も込みで、月額5,000円から利用出来るクラウド版やAWS版は、機能的にはソフトウェア版に近く、対応していればプラグインも使うことができます。場合によってはクラウド版がマッチすることもありますが、年間で最低でも6万円となるので、コスト的にはソフトウェア版とあまり変わらないかもしれません。ソフトウェア版かクラウド版かは運用の体制などの問題と言えそうです。
10ページ未満くらいで、プラグインなどの拡張の必要がなく、お知らせは更新できるようにしたい、イベントのお知らせや制作実績くらい更新できればいい。そのような案件では、やはりコスト的には厳しく、オープンソースのCMSやちょっとした更新プログラムを検討するということにならざる得ませんでした。
MovableType.netは、この小規模な案件をカバーできるMovable Typeシリーズといえます。プラグインの追加や機能的なカスタマイズができませんが、テンプレートの構築の仕方は、その他のMovable Typeシリーズと共通部分も多いので、Movable Typeを使っていると扱いやすい製品となっています。Movable Typeの場合、プログラムを触らなくても、テンプレートだけでいろいろできてしまうという特徴があるので、使ってみるとMovableType.netでもできることが多いので、多くの機能を望まないサイトでは十分な場合もありそうです。
初期費が不要で、サーバーも必要なく、月額2000円代から使うことができるので、小規模なサイト向けのMovable Typeと言えます。
サイト制作サービス全体での立ち位置
さて、サーバーの管理も不要で、小規模サイトでも手が出そうな料金体系ではあるMovableType.netではありますが、かといって良いことばかりでもありません。
金額について、通常のソフトウェア版ではライセンス費が9万円。別途、サーバー代がかかります。安いサーバーを使えば、年間で10万円弱のコストでしょうか。インストール費や後でバージョンアップを行う場合など、その作業費が必要ですが、MovableType.netでは、そういったコストも不要になるため、年間で25,000円のMovableType.netは手軽であることは間違いありません。
ただし、料金はウェブサイト毎になるため、3つのサイトであってもソフトウェア版は1つのライセンス費とサーバー(マルチドメインが可能なサーバーであれば)で済みますが、MovableType.netでは3つの契約になるため3倍です。
年間25,000円のプランでは、ウェブサイトが1個。ブログは5つまで。ユーザー数も5人まで。容量は5GBまで。従って、規模やサイトの内容によってはコストがかさみます。つまり、本当に小規模のサイトしか対応できないということになります。
また、Movable Typeのシリーズで考えると手軽で安価に始められますが、WordPressのようなオープンソースのCMSと比較した場合はどうでしょう。ライセンス費は不要なため、サーバー代だけと考えるとWordPressのほうが断然安くなってしまいます。ユーザー数やサーバー容量も断然上でしょう。
ただし、インストール費やバージョンアップの費用も必要なため注意しなければいけません。もちろん、自分でできてしまえるのであれば安く済みますが、制作会社として依頼を請けた場合は、バックアップをとり、テスト環境を作ってバージョンアップをしても動作に問題がないか確認し、バージョンアップをする上でトラブルがあったらバックアップから復元したり、プラグインが動かなければ代替の方法を実装する必要があります。従って、制作会社に任せた場合は、それなりのコストが必要です。
WordPressをサーバーにインストールして運用する場合、トラブルやバージョンアップに対処をできるかどうかがポイントです。対処できないからとバージョンアップを怠ることはセキュリティの観点からは非常にマズイので、おすすめできません。自身で対処ができるという場合は、オープンソースのCMSのほうが断然安く済みますが、対処できない場合は意外にコストがかかる場合があります。
では、WordPressよりもMovableType.netのほうがいいのか、というとそういう話でもなく、WordPressにもWordPress.comというウェブサービス版があります。
WordPress.comは、無料で使うこともでき、独自ドメインを利用する場合はプレミアム版を利用しますが、それでも年間で11,800円。テーマも無料のものと有料のものが数多くあり、MovableType.netよりも選択の幅が広かったりします。HTMLがわからないというような人であれば、断然WordPress.comのほうがカスタマイズもしやすいというのも事実です。できるだけ安く、できるだけ自分でなんとかしたい。という場合は、WordPress.comのほうがいいかもしれません。
同じように、無料で使うことができ、独自ドメインを使う場合には有料というサービスは多く、WixやJimdoといったサービスも同様です。Wixは月額900円くらいで独自ドメインを使うことができ、広告を取り除けます。Jimdoも月額945円で独自ドメインにすることができ、ある程度のカスタマイズもできてしまいます。
正直なところ、金額だけで言えば、これらのサービスの方が割安です。カスタマイズもMovableType.netよりもウェブ制作の知識なしでできる部分は多いです。
つまり、Movable Typeのソリューションの中では一番手頃ではありつつ、サイト制作サービスというジャンル全体では、けして手頃ではないというのが実態です。正直、ぜんぶ自分でやりたい、という人にはMovableType.netではなく、Jimdoをすすめています。Jimdoを立ち上げる時に少しお手伝いをして、あとはご自身で運用いただくなどという場合もあります。更新頻度が高い場合やスタイリッシュなテーマを使いたい場合などは、インポートやエクスポートもできるWordPress.comも個人的にはおすすめです。
決して、小規模な案件ならすべてMovableType.netできまり!というほどではありません。
MovableType.netはどんな人が使うと良いの?
機能的な制限もあり、サイトの規模が大きくなってくるとそれほど安くならない上に、金額的にもカスタマイズのしやすさ的にも他のサイト制作サービスより劣ってしまうMovableType.net。見方によっては、とても中途半端なサービスに見えてしまう部分もあります。
予算がしっかりと取ることができ、ウェブ制作会社に任せることができる場合は問題ないのですが、できるだけ予算を抑えたい場合でも、ウェブサイトをどんどん更新していって活きたものにしていきたいものです。すると、なんらか更新システムは欲しいところです。
サイトのカスタマイズ方法やトラブル時の対処など、ご自身でなんとかする、あるいは身近に聞ける人がいるのであれば、WordPressなどのオープンソースのCMSでも良いかと思います。HTMLはわからないけど、デザインも含めて試行錯誤しながら自身で作っていきたいのであればJimdoなどが良いと思います。
カスタマイズに関して言えば、MovableType.netは、HTMLコーディングがある程度わからないと厳しいと言わざる得ません。テーマは幾つか用意されていますので、文字の差し替えや画像の差し替えだけで公開にできれば良いですが、経験上、差し替えだけで済むことはまずありません。なんらかのカスタマイズが必要になってきます。すると、Movable Typeのカスタマイズの知識、少なくともHTMLとCSSが多少わからないととても苦労します。
例えば、テンプレートにはない場所にバナーを置きたい。カレンダーを追加したい。ECのサービスのパーツを埋め込みたい、ブログを増やしたい。そのようなカスタマイズは、知識のない人は苦労するかもしれませんが、Movable Typeを扱うものにとっては簡単なカスタマイズだったりします。
では、どんな人にMovableType.netを勧めたいかというと、ウェブサイトの更新は頑張ってするけれど、カスタマイズや管理を自分でまったくしたくない人です。
ウェブサイトは作って終わりではありません。作ったあとに更新をして、情報を発信していくことの方が大事です。作ることは専門家に任せて、更新に専念したほうが有効だと考える人向けと言えます。
当初、Web制作に慣れていない人に、MovableType.netのカスタマイズの仕方を教えたりしていましたが、制作に四苦八苦する時間が増えるだけでなかなか公開に至りません。また、ウェブサイトを公開しようと思うと考えなければいけないことがたくさんあります。ドメイン、サーバー、写真素材の用意、アクセス解析、SEO、セキュリティ、バージョンアップ、メール設定、いろいろ付随してでてきます。
本当は、早くサイトを作って自身のビジネスに専念するほうが大事なはずですが、そこまで辿りつかないのです。
そのため、Whizzo ProductionとしてMovableType.netを勧める場合は、基本的にこちらでカスタマイズをする前提です。お客さんにカスタマイズをさせるようなことはしません。(もちろん希望する場合はお教えします)
最初に必要なカスタマイズをして運用してもらうか、運用費も含めて月額費用をいただき、更新や管理などのお手伝いまでしてしまうかのどちらかです。
じつは以前は、このような方法でJimdoの運用をサポートしていました。Jimdoのほうが安いうえに、メールアドレスや簡単なカート機能があったり、HTMLがわからなくてもカスタマイズしやすいなどの利点もあるのですが、制作者の観点からは、コンテンツのバックアップができなかったり、デザインのカスタマイズにやや制限があったりというところがネックになったりします。そのため、いまは、最初に構築を手伝わせてもらえるのであればMovableType.netをおすすめします。(最初に手伝えないのであればJimdoをおすすめします)
MovableType.netを勧めたい3つの理由
MovableType.netは、制作会社に依頼すること前提で、カスタマイズや管理を自分でまったくしたくない人に向いているとしました。逆に、カスタマイズや管理を自分でしたい人には向いていません。
ただ、制作会社に依頼する場合でも、オープンソースのCMSやJimdoなどのサービスなど選択肢はいくつかあります。その中で、Whizzo ProductionとしてはMovableType.netを勧めたいところですが、その3つの理由を最後に挙げたいと思います。
1)メンテナンス不要
納めたサイトは、残念ながらずっと面倒を見ることができません。ウェブサイトの脆弱性の多くはCMSによるものです。一番いけないことは、古いCMSを使い続けることです。しかし、バージョンアップの手間や、ライセンス費の問題で古いCMSが使い続けられることはかなり多いです。
MovableType.netは月額費用の中でバージョンアップも対応してもらい、サーバーのセキュリティ対策もしてくれます。従って、通常ではCMSのバックアップが必要になってくる2〜3年後などに一番ありがたみが実感できると思っています。
サーバーの管理を、開発元のシックス・アパート社が行っているのはとても安心で、サーバーも最適化されているので管理画面の動きもストレスありません。
2)持ち運びやすさ・拡張性
ウェブサービスにおいて重要なのは、他のサービスに引越ししやすいかどうかです。それは、コンテンツのバックアップがしやすいかどうかにも関わります。最悪、サービスが終わってしまう場合などでも問題なく他のサービスに移行できるかは、リスクヘッジとしては考えておきたいところ。
MovableType.netは、記事のインポート/エクスポートに対応しており、Movable Type形式のエクスポートは、業界標準になってる部分もあるので、他のサービスに移行しやすいという持ち運びやすさがあります。
また、MovableType.netは小規模サイトにしか向かないので、機能的に限界を感じた場合、ソフトウェア版やクラウド版に移行しやすいことが大きなメリットです。テーマを書き出して、ほとんどそのまま使えます。まず、MovableType.netでスタートし、規模が大きくなったらシステムの移行というのがスムーズです。
3)運営会社の力が入ってる
とはいえ、じつはMovableType.netは、まだまだ未熟と言える部分があります。スマートフォンアプリもあるのは嬉しいですが、ソフトウェア版で使えるものよりも使いにくかったりします。ネイキッドドメインが使えないなど、機能的にどうにかして欲しい部分もあったりします。
ただ、運営会社のシックス・アパート社が予想以上に力が入っているようで、積極的にユーザーの声を拾い上げようとしていたり、1年間での機能追加もとても多く、要望を言えば聞いてくれそうなところがあります。
こういうサービスでは、やはり声が届くかどうかというのは重要で、日々の困ったことがすぐには解決できないまでも、声を聞いてもらえるかどうかは、自信を持って勧められるかどうかに関わります。その点、MovableType.netは今のところ非常に力が入っている感じがあり、このまま頑張ってもらうためにも応援したいと思わせてくれます。
小規模の案件も手伝えるようになった
Whizzo Productionでは、Movable Typeのコミュニティを行っていることもあり、個人事業主や店舗を経営されてる方などからウェブサイトの相談をされることもあるのですが、普段は70万以上の予算規模の案件が多いので、なかなか予算が合わず、請け負って制作をお手伝いすることができません。
そこで、MovableType.netを使い、ある程度テンプレートなどを基に作ったり、MovableType.netの使用料とともに多少の管理費を継続的にいただくことで、必要以上にこちらが負担せずに小規模の案件をお手伝いすることができるようになりました。
無理にソフトウェア版を勧めて、何年か後にメジャーバージョンアップでライセンス費が再度、必要になったりというような心苦しさもありませんし、納めた後にセキュリティ的な問題が起きないかという心配も軽減しています。
他のオープンソースCMSでも同様の運用はできるとは思うのですが、通常の予算規模で使うMovable Typeのノウハウが活かせるので、こちら側のカスタマイズの負担も大きくなく、場合によってはMovableType.netからソフトウェア版に移行できるので、将来的な機能拡充にも最終的には移行することで対応するという解決策が見える安心感もあります。
従って、小規模案件に向けて、普段使わないCMSやサービスを覚えることなく、将来的な拡張も心配せずに勧めることができるので、こちらとしても安心して取り組むことができるのが助かるところでもあり、いままでアドバイスだけでなかなか仕事としては対応できなかった案件にも対応できるので、取り組みがいのあるサービスになっています。