先週「日本経済新聞」(10月14日夕刊)でも、「神経の難病、多発性硬化症 ― 型見極め治療・副作用を回避」という特集記事が発表された。
こんな感じの記事だ。
「(多発性硬化症の)一般的な治療法はインターフェロンベータの投与。日本神経治療学会と日本神経免疫学会が2004年にまとめたガイドラインでも有効な治療法としている。しかし副作用が相次ぎ、見直す動きが進む」。
2003年の厚労省の調査でも308人中114人が中止をしていた。その後、特に「視神経脊髄型と呼ぶタイプに深刻な作用が出ることがわかってきた」(山村隆/国立・神経センター神経研究所免疫研究部長)。
視神経脊髄型の場合は、「インターフェロンベータではなく、ステロイド剤の投与が有効な治療法となる」
「視神経脊髄型かどうか見極めるには、幹部のMRI検査などとともに抗アクアポリン4抗体の有無を調べる」。
「タイプによって治療が異なることを知らない医師はまだ多い。患者は専門医に相談し、自分がどちらなのか確認して治療を受けて欲しい」(前出・山村隆)というのがこの記事の結論だった。
今年の4月の読売新聞以来(http://www.ashida.info/blog/2008/04/post_284.html)の大新聞社の報道だ。こういった報道が半年経った今でも一般紙に報道されるのには理由がある。
厚労省も患者団体「MSキャビン(http://www.mscabin.org/pc/home.html)」「MS友の会(http://www.h2.dion.ne.jp/~msfriend/mokuji/contents.html)」も、抗アクアポリン4抗体の検査についてまともな反応をしていないからだ。
厚労省が保守的なのはわかるが、「MS友の会」はほとんど沈黙、「MSキャビン」に至っては反動的とも言える啓蒙活動をやっている。
まず「厚労省」は読売新聞の4月の記事に対して、「新聞報道では、抗体とだけ書かれており、その詳しい説明はありませんが、これは抗アクアポリン4抗体のことです。この抗体が陽性の場合は、IFNβ(インターフェロンベータ=ベタフェロン)の治療効果が明らかでないことが多いため中止されていることが多いようです。今回の新聞報道について、不安をお持ちの患者さん・ご家族の方は、主治医の先生によくご相談されてください。自己判断で治療を中止しないようにして下さい」(http://plaza.umin.ac.jp/~nimmunol/official/med/20080423.html)と。
これは一言で言えば、IFNβ(インターフェロンベータ=ベタフェロン)投与を安易に止めるなと言うものだ。治療法の選択に関わる新しい発見があるのなら、安易に(無理をして)続けるなというのならわかるが、文面は「自己判断で治療を中止しないようにして下さい」となっている。
私が本来の意味で保守的な厚労省の役人なら、「IFNβの副作用などが強く、症状の改善が見られない状態にある(特に視神経脊髄型の)患者さん・ご家族のみなさんは抗アクアポリン4抗体検査を受けるなど主治医の先生によくご相談されてください」と書くだろう。あるいは治療未開始の初診者でMRI検査後「視神経脊髄型MS」ですと診断が下された場合には、「速やかに抗AQP4抗体検査を受けましょう」くらいは書くでしょう。にもかかわらず、なぜ「IFNβ治療を中止しないようにして下さい」なのか。
私の感覚では、未だに多発性硬化症と診断された場合には、「IFNβだけがエビデンスのある治療薬」と認識している医師の方が多い。「タイプによって治療が異なることを知らない医師はまだ多い」(山村隆・国立神経研究所)のである。この山村の発言は今回の日経夕刊(10月14日)の発言。今現在でも「多発性硬化症にはIFNβ」という認識がまかり通っている。
視神経脊髄型陽性患者のIFNβ投与は気をつけた方がいい、あるいは避けるべきだという認識の方がまだまだ少数派なのである。逆に言えば、 IFNβが害悪になる場合があるという情報を(どこからか)得て、IFNβが効いているにもかかわらずその投与を中止する患者の方がはるかに少ないということだ。
その少数派に対して「自己判断で治療を中止しないようにして下さい」と厚労省は訴えているのである。
厚労省が、製薬会社やそれに連なる大学教授たち(たぶん関西系研究者)に遠慮して、そういった注意コメントを公表するのはまだわかる(よくあることだ)。
しかし患者団体のMSキャビンまでもが、同じ種類のコメントをするのはなぜか。
MSキャビンは、読売新聞の発表後1週間して、「NMOとMS」と題する記事を代表の中田郷子自身が発表した(http://www.mscabin.org/pc/nmo.html)。※なおこの中田の記事は私のこの記事が掲載されて以降、掲載が取り消されています。理由はわかりません(苦笑)
中田郷子がここで言いたいことはただ一つ(訳のわからない「関連年表」が掲載されているが)。
「この記事によって、現在インターフェロン・ベータを上手く続けているMS患者さんが、充分な診察と検査を受けずに治療を中止、あるいは、この薬の効果が期待されるMS患者さんが治療開始を思いとどまることで、治療の機会が失われる可能性も懸念しています。国際的に、MSの再発や病状進行を抑制し、MRI所見を改善する治療効果が証明された薬剤のうち、現時点において日本で承認されているのは2種類のインターフェロン・ベータだけだからです」ということだ。
中田郷子が厚労省よりももっとひどいのは、「抗AQP4抗体陽性の人では、インターフェロン・ベータ療法の有効性がみられないと主治医が判断した患者さんの割合が高いということ」「実際にはインターフェロン・ベータを含めてすべての治療薬の効果は、決して完全ではありません」「治療の反応性は個々人で違います」などと「インターフェロン・ベータ」のNMO陽性患者(抗AQP4抗体陽性患者)に対する悪化症例を相対的に隠蔽する傾向があるということだ。有効ではない、という言い方しかしない。「有効ではない」薬なんて世の中にはいくらでもあるでしょ(苦笑)。まして難病なんだから。
その彼女の思想がはっきりするのは次の一文。
「『インターフェロン・ベータはMSの再発を3割抑える』というのは、治療によってほとんど再発しなくなる患者さんもいますが、ある程度の再発が起こる患者さんもいて、この薬を使っている患者さん全体の3割の再発を減少させるということです」(この文章は「NMOとMS」の結論部の手前にある文章。とても2008年4月におけるINFβ説明とは思えない。たぶん中田は2005年2月発表の「国際的な」Neurology誌論文以来、こう言うことを啓蒙だと思い続けてきたのだ)
NMOのマーカーとしての「抗AQP4抗体」の発見を「ある程度の再発が起こる患者さんもいて」という言い方で相対化しようとしている。わざわざ「NMOとMS」という記事を読売の発表以後書きながら、いまだに「インターフェロン・ベータは3割の人には効いている」と言いつづけている。その人たちは投与を中止するべきではない、と。
患者の1人1人が自分がその「3割」の中に入るのかどうか心を砕いているときに、そんなことを言いつづけている。
「この記事によって、現在インターフェロン・ベータを上手く続けているMS患者さんが、充分な診察と検査を受けずに治療を中止、あるいは、この薬の効果が期待されるMS患者さんが治療開始を思いとどまることで、治療の機会が失われる可能性も懸念しています」。
この結論部の記事は全くおかしい。
まず、「上手く続けている患者」が悩むよりも上手く続けていない(続けていてもうまくいかない)患者が悩んでいる方がはるかに多いに決まっているだろう。上手く続けている患者は多くても「3割」しかいないのだから。
次に、「充分な診察と検査を受けずに治療」を続けているのは、「インターフェロン・ベータ」治療の方だ。これは先の山村隆・国立神経研究所免疫研究部長の発言でも明らか。まだなお、OSMSとNMOとの関係を理解していない医師の方が多い。だからこそ読売に続けて日経までもが特集記事を組んだのだから。
したがってOSMSにも「インターフェロン・ベータ」は有効という2005年2月発表のNeurology誌の論文(「インターフェロンベータ 1b(註:ベタフェロンのこと)は日本人の再発寛解型MS患者において有効である:ランダム化された多施設研究」p.621~p.630)を信じている医師の方が日本にはまだ多い。誤診療・誤治療を受ける可能性の方が現状では高い。
重要なことは、誤診療・誤治療のみならず、インターフェロン・ベータ治療で病気の悪化例が存在するということだ。単に効かないのではなく、悪化し再発を誘発する場合があるということ。中田郷子は、「増悪する」場合の記述に触れているが、その時に限ってわざわざ「※これらは治療効果に関する、主治医の印象です」とご丁寧に注釈している(苦笑)。
しかしここ数年の研究では、OSMSとNMOとの境界(関連と差異)について、マーカーではあるが有効な検査が開発され、「医師の印象」や「個人差」を超えた治療選択が出来るようになってきた。それが抗AQP4抗体検査の意義だろう。
この検査の意義は、現場で(特に2005年の日本人研究者たちの先の研究以降)ベータフェロン有効論を耳にしながらも、ステロイド投与量を減らしていくと再発する例を経験していた医師たちにとっては、ごく自然な結論だったに違いない。
現在、多発性硬化症 の「専門医」であるなら、視神経・脊髄に炎症が集中する場合にはまずは抗AQP4抗体検査を受けましょう、というのが常識だろう。インターフェロン・ベータが効くかどうかは二の次だ(それこそ人それぞれだ)。
患者団体としては、治療選択に不安を感じる人がいて(インターフェロン・ベータ投与を)中止する人がいるのは良くないと思うのであれば、抗体検査を受けましょう、というのが普通。なのに、この記事のどこにも、抗AQP4抗体検査を受けてみて下さい、という紹介はない。「NMOとMS」というタイトルで単独の記事を書きながら、抗AQP4抗体検査の必要を説かないというのはどういう啓蒙なのか。
私の立場は明瞭。もともと難病なのだから、どんな薬も効くことはあるし効かないこともある。悪化させる場合もある。インターフェロン・ベータのように何かのきっかけで大量の研究資金がつぎ込まれ「3割」というエビデンス(エビデンス度1b)が出た場合でも、同じように大量の研究資金が現在の他の免疫抑制剤(や古典的なステロイド治療)にもつぎ込まれ実験データが報告されれば、3割くらいの数値がでるものはあるかも知れない。
インターフェロン・ベータ有効論の根拠になっている2005年のかの論文でさえ、「サンプル数が少なく統計学的有意はない」とされているのだから、「3割ある」とわけもわからず唱え続ける意味はない。
そもそもインターフェロン・ベータがなぜ多発性硬化症に効くのかを説明できる研究者など世界中を探しても誰もいない(私自身はかなり探したが)。効くから効く、効かないから効かない、悪化させるから悪化させる、それでいいではないか。それが難病治療というものだ。
そんな境界の不明確な「難病」治療の実際の中で有力なマーカー(=抗AQP4抗体)が発見され、陽性患者には憎悪例が多いという評価がなされた場合には、真っ先に「投与に慎重であれ」という警告を出すのが患者団体の役目だろう。「慎重」というのは、今や、倫理でも姿勢でも努力でもなく、「抗 AQP4抗体検査を受けなさい」ということだ。
OSMSかNMOかの違いは、今や「概念」や「研究」や「ガイドライン」の問題ではなく、「抗AQP4抗体検査」の結果が全てだと言っても良い(検査方法はまだ手作業だし、一回限りの検査では結論が出ない場合もあるが)。
多発性硬化症の(日本における)治療史の上でここ数年のエポック(少なくとのエポックの一つ)が「抗AQP4抗体検査」であるにもかかわらず、なぜMSキャビンの中田郷子は自らが筆を執りながらもインターフェロン・ベータの「治療の機会」が失われることばかりに心を砕くのか。
製薬会社にも大学教授たちにも本来中立であるべき患者団体が、治療の消費者の立場を忘れて新しい知見(もはや新しい知見のみならず新しい常識)に目を閉ざすのは悲しいことだ。
私は、『ロレンツォのオイル/命の詩』という映画を今思い出している(http://www.ashida.info/blog/2008/03/post_273.html)。
ミエリン再生に尽力した家族の戦いを描いた心を熱くさせる名作映画だが、ここでも患者団体はロレンツォの家族に対して何度も反動的に振る舞う。どんな市民運動(消費者運動)も時間が経つと初期(創生期)の協力者(+創設者)に影響され保守化する。新しい発見に対しても医療の現場以上に遅れてしまう。私個人でも集められるくらいの情報(もちろん誤った情報もあるだろうが)をなぜMSキャビンは報告できないのか。残念に思う。
※インターフェロンベータ(ベタフェロン)有効論の病理学的な根拠の薄弱については、私の以下の記事を参照のこと→http://www.ashida.info/blog/2008/04/post_284.html。ただし、私は、ベータフェロン反対派ではない。根拠がなくても効く人には効く、ということだろう(長期間の服用で副作用がどうでるのかはまだ誰にもわからない。それでも再発するよりはましだろう)。私が言いたいのは、「MSです」と診断された人は、速やかに抗AQP4抗体検査を受けた方がいいということだ(検査自体は血液検査ですからすぐに済みます)。
(Version 5.0)
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