ついにベータフェロン薬害についての厚労省の「全国緊急調査」結果が4月18日読売新聞で報告されました(http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20080418-OYT8T00510.htm)。

全国977医療機関に緊急調査を実施。ベータフェロン「治療を受けた患者計308人のデータを分析したところ、37%に当たる114人が治療を中止していた」とのこと。

「日本神経治療学会と日本神経免疫学会は2004年、一時的に症状が悪化しても進行を抑える可能性があるので薬の使用を中止すべきではない、とする治療指針を作成したが、両学会はこの指針の見直しを始めた」と続けて読売新聞は書いている。この薬に群がっていた研究者達もやっと“事実”を認めざるを得なくなった、ということか。

私の家内は「一時的に症状が悪化しても進行を抑える可能性があるので薬の使用を中止すべきではない、とする治療指針」の犠牲になった1人。ここまでくるのに、4年もかかったということだ。複雑な思いです。

この薬(ベータフェロン)についての私の現在の理解は以下の通りです(ほとんどが今年2月来のPさんとのやりとりを整理したものです)。

1) ベータフェロン効能論の起源は、おそらく1981年のScience誌の論文に遡る。

2) 当時CMSはウイルス感染が「引き金」になるという議論があり、抗ウイルス効果を持つインターフェロンが注目された。

3) 線維芽細胞から抽出されたベータインターフェロンを(当時は当該物質は血液脳関門をほぼ通過せず体循環投与は効果が乏しいと考えられ)脳脊髄液中へ髄注することが考えられた。

4) 実際にMS患者に対するいわば人体実験をニューヨークの研究者がやってみたところ、再発抑制効果が出た。この論文を契機として、アルファインターフェロンやガンマインターフェロンも同じように人体実験され、ガンマに至っては相当の増悪を来す結果となり、この3者の中で最もベータが良いということで残っていった。

5) しかし実際には抗ウイルス効果は直接の関係性がないと後日指摘され、何らかの免疫調節作用かといわれるに至っている。

6) ベータフェロンはT細胞に対して何らかの修飾をする「免疫修飾能」があると推察されており(後だしジャンケンのように、当初からこの期待があったような説明が付け加えられているが、前述のように、きっかけは1981年のScience誌にあるように「抗ウイルス効果」を期待したものだった)、FDAに認可されたNatalizumabはこういったリンパ球が脳血管関門を越えられないようにする目的で、脳血管関門を通過するために必要なアルファ4インテグリンを阻害する抗体医薬として登場した。

7) こうした情況の中で(ベータフェロン=T細胞免疫修飾機能論の中で)、1996年7月にMayoの医師らが、Brain Pathology誌にMS病巣におけるオリゴの生き死にパターンにはバラエティがあることを指摘。その後2000年6月のAnnals of Neurology誌に同じMayoの医師らが、MSにおいて脱髄進行中の病巣を多数解析し、その分類を下記のように示した。

Type1=T細胞とマクロファージのみからなる炎症(=細胞性免疫)
Type2=免疫グロブリンと補体からなる炎症(=液性免疫)
Type3=オリゴの自発的死(アポトーシス)による脱髄が主体で免疫グロブリン・補体・髄鞘再生を認めないもの
Type4=オリゴの変性が主体で髄鞘再生を認めないもの

8) 上記の分類の結果、MSといえば細胞性免疫による自己免疫疾患(Type1)、と考えられていたところに、液性免疫(Type2)の関与が指摘され、さらに、そもそも免疫が主体ではく、オリゴが「被害者」とは言い切れない病態(Type3,4)が指摘された。

9) このような病態の差が、ベタフェロンの効果の差(効く人と効かない人の差)に繋がっているのではないかと考えられるようになった。

10) 実際、 2005年8月には同じMayoの医師らがLancet誌において、Type2(液性免疫)のMS患者では血漿交換が奏効することを報告している。アメリカでは(脳腫瘍との鑑別等を目的として)日本よりも気軽に脳生検を行うので、脳生検でType分けをすれば、MS治療の個別化ができるのではないかとすら言われていた。

11)ところが、2008年1月のAnnals of Neurology誌に、この1996年から連綿と続いた「MSにはバリエーションがある」という議論を全てひっくり返し、かつ「MSと言えば細胞性免疫である」という仮説をも覆す論文がオランダから投じられ、全ての脱髄進行中のMS病巣は、Type2(液性免疫が主体)である、と指摘された。

12) 2008年2月14日号の(世界一有名な医学誌である)New England Journal of Medicineに、MS患者を対象としたPhase2のリツキサン(日本ではリンパ腫で既に使われている抗体医薬)治験結果(1年間の観察期間)が報告された。2週間を空けてたった2回のリツキサン点滴をしただけだが、1年間の追跡で、投与群での再発は半減していたとのこと。

13)簡単に言うとリツキサンというのは、B細胞(免疫グロブリンを作る細胞)を殺す薬。つまり液性免疫を抑制し得る薬がMSにおいて再発減少に効果を出したということになる。Phase3が終わっていないので、未だ試験途中であり、長期効果を見たものではないが、脱髄MS病巣は全て Type2であるとする2008年1月の論文と併せて考えると、MSを細胞性免疫の疾患と考える論拠は乏しくなったと言えないこともない(ちなみに、NMOについては極小数例におけるリツキサンの試験投与の結果が2005年のNeurology誌に報告されているが、再発を抑制できるのではないかと報告されている)。

14)そもそもMSをType1~4を区分けしたのがMayoですが、気になるType2(液性免疫主体のMS)とNMOとの違いについて、NMOにおける免疫グロブリンと補体は主に血管周囲に沈着していたが、Type2のMS病巣では脱髄中の髄鞘のゴミやマクロファージ・オリゴの周囲でこれらを認めたと彼らは報告している。また、NMOにおいては脱髄が生じている炎症病巣と、脱髄はないが炎症だけの病巣があったことを指摘している。つまり NMOにおいては脱髄は副次的な反応かも知れない。

15)脱髄進行中のMS病巣が全てType2ならば、NMOとMSの「病理学的な区分け」では、どちらも液性免疫が主体的に関与するものの、NMOではその対象がアストロであり、MSではオリゴである、ということになる。NMOではアストロを介した副次的な脱髄が生じ、MSでは直接オリゴ・髄鞘をターゲットとした脱髄が生じるという仮説が考えられる。

16)その意味でベータフェロンはNMO(液性免疫)には効かないかも知れないが、MS(細胞性免疫)には効くという議論ももはや成り立たないのではないか。

17)MSはMS、NMOはNMO、あるいはMS→細胞性免疫→T細胞性免疫疾患→ベータフェロン有効というのは、EBM(Evidence-based medicine)の立場からも怪しいのではないか。。

18)ベータフェロンEBM主義の元になった2005年2月の日本人治験論文(Neurology誌)もたった205名の治験。とても統計的な有意性はありえない(論文の前置き自体にそう書いてある)。そもそも1年間でも何回も再発する人や、10年単位でも再発しない人がいるMSに対する有効性を、しかも30%前後の有効性という結論でもってどれほどのEBMになるのか、私にはまったくわからない。

以上がPさんとの議論(http://www.ashida.info/blog/2008/03/post_277.html#more)で整理された私の認識です。ベータフェロンは害にならない限り(=体調が悪くならない限り)はやってもいい。無理をしてやる必要はない。つまり普通の免疫抑制剤の適否と同じように扱えばいい。特に特権的な薬ではないということです。その程度のものではないでしょうか。NMOかMSかの問題ではないような気がします。

※一方で、バイエル社はベータフェロンで売り上げを伸ばしているとのこと(http://www.japancorp.net/japan/Article.asp?Art_ID=43353&sec=18http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/media/djCDA8609.html)。日本の医療はどうなっているのか。

(Version 5.0)

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