12日火曜日の『朝日新聞』天声人語。よほど暇でないと読まないが、今、学校から帰ってきたら、片付け損なってテーブルの上に置いてあったので目にとまった。

この忙しいのに、これがいけなかった。今、月曜日に作った例のカレー(http://www.ashida.info/blog/2006/09/sb.html#more)の残りを食べながら読んでいるが、12日の話題は、「古本探しの楽しみ」。「古本でも新刊でも、店頭での予想外の出会いがほしい」。これが言いたいことのすべて。特にインターネット書店などでの検索で本を探すこの頃のご時世に対して批判的だ。いかにも天声人語らしい“教養”だ(〈教養〉とは何かについては http://www.ashida.info/blog/2001/05/post_49.html を参照のこと)。

私はそんなくだらない比較にまったく関心はないが、そこで、京大の政治学者の故高坂正堯(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E5%9D%82%E6%AD%A3%E5%A0%AF)とその弟子の岩間陽子(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B2%A9%E9%96%93%E9%99%BD%E5%AD%90)とのやりとりの紹介が出てくる。

ドイツに住んでいた岩間陽子が「ミュンヘンは歴史を学ぶのによい街ですね。趣味の良い本がとりそろえてあるような、中くらいの本屋さんがあるので、ぶらぶらしていて楽しい街です」と高坂に語ったら、高坂はこう答えた。「あなたは運を信じていますね」。さらにこう言った。「すべての本を読むには、人生はあまりにも短く、歴史はあまりに複雑である」と。

なかなかいい恩師との会話だが、この天声人語子はバカなことに、このやりとりを、こうまとめる。先の高坂の「歴史はあまりに複雑である」という文章の直後の文章だ。

「確かに、本との出会いには運命めいたものがあるように思う。失恋、入試の失敗、親を亡くしたとき、不思議なことだが、慰めと勇気を与えてくれる本が、いつもどこからか現れる。人と同様、本との出会いも、効率では計れないものがある」。

これが、12日火曜日の天声人語の最後の文章である。高坂と岩間との関係は、こんなくだらないことを言うための主要な事例になっている。

なんと天声人語はバカなのか。高坂は、無能な弟子である岩間陽子(私は実際の関係にまったく関知しないが)をくさしているのである(そしてとんまな岩間陽子自身、そのことをわかっていない)。それを知るにはありありとした面白い会話だ。

研究者にとって書物を“予想外”に見つけるというのは、ほとんど無能に等しい。「すべての本を読むには、人生はあまりにも短」い。だから「運」なんて頼っていたら、ほとんど本など読めないのである。そもそも読むべき本でさえ、短い人生の中で全部読めるかどうか怪しいものだ。読むべき本とは、探さなくてもある本だからだ。それでさえ、短い人生の中で必ずしも読めたりはしない。ほとんど読めないことの方が多い。

それにも関わらず、異国の「中くらいの本屋」での本探しを「楽しい」というのだから、高坂には岩間陽子がサイテーの女に映ったに違いない。「あなたはよほど本を読んでいないのね」という代わりに、「あなたは運を信じていますね」と高坂は言ったのである。それは、弟子との決裂宣言のようなものだ。

「恩師」というものが、いちばん仲が悪い(あるいはいちばん無能だと見なしている)のは“弟子”である。民主党の前党首前原誠司(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%89%8D%E5%8E%9F%E8%AA%A0%E5%8F%B8)を「あなたは頭が悪いから大学院進学はやめた方がいい」と言ったのも高坂だが、岩間陽子にも「あなたは頭が悪いから本を読めないのよ」と言いたいのだろう。それを「あなたは運を信じていますね」と言っただけのことなのだ。

こんな面白い話がなぜ、「確かに、本との出会いには運命めいたものがあるように思う。失恋、入試の失敗、親を亡くしたとき、不思議なことだが、慰めと勇気を与えてくれる本が、いつもどこからか現れる。人と同様、本との出会いも、効率では計れないものがある」になるのか。『朝日新聞』というのは、この程度の知性しかないのか。

大学入試にいちばん出題されるのが『朝日新聞』らしい(たしか、『朝日新聞』自体がそんなコマーシャルをしていたような気がする)が、日本の大学生は、こんな文章を読まされて、大学生になっているということか。だとすれば、これは誤文訂正問題だろう。毎日毎日時間に追われて文章を書いている連中の“教養ある文章”なんて、すべてが誤文訂正問題だ。時間を与えたとしても、この人たちが“良い文章”を書けるとは思えないが。

(Version 2.0)

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